『そうそう。最初からそう素直に言えばいいのに』
「けど、一緒にご飯食べたら、さっさと帰るからね。あと、依頼料も、忘れないでよっ」
あたしは、念押しをする。
『わかってるって。んじゃあ、クリスマスイヴにこの前のバーで待ってるから』
うん、と返事をしようとして、思いとどまる。
イヴ?!
「えっ!? ちょっと待ってよ。クリスマスイヴって何よっ」
『クリスマスイヴは、あれだろ。キリスト生誕の前日――――』
「んなこと分かってるわよっ。そうじゃなくて。何でイヴなのよ」
『いいじゃん、イヴ。日本では、恋人同士が愛を語らう日だよ。俺と愛を語らおう』
「凌と愛を語ってどうすんのよっ。ったく」
『どうせ、相手も予定もないだろ? そんな寂しい妹の相手をしてやるって言ってるんだ。ありがたいと感謝されてもいいはずなんだけどな』
「悪かったわね。相手も予定も無しで」
『あっ。図星か』
凌はケタケタケタと声を上げて笑う。
「とにかく、俺、イヴは明のために空けてあるから。必ず来いよ、んじゃ」
言うだけ言うと、なんの未練もないように通話が途切れた。
「ちょっ、ちょっとっ!」
あたしが引き止める声は少しも届かず、機械音が一定の音を立てるだけだった――――。