映画が終盤に差し掛かった頃、ようやくコーラの存在を思い出し、水っぽくなったそれを口にして、顔を顰めたのを覚えている。

水っぽいコーラは、本当に不味くて、あたしは半分も飲むことができなかった。

けれど、新しく父親になってくれた人に、飲み切れなかった、と言うことができずにモジモジとしていたんだ。

あの、半分以上残してしまった水っぽいコーラは、結局どうしたんだっけ?


「始まるな」

遠い記憶に、ぼうっとしていると、隣に座っていた凌がコーラをひと口飲み呟いた。
その横顔を見て思い出す。

そうだ。
残してしまったコーラを父に気付かれないよう後ろ手に持っていたら、凌がさっと手にして自分の空になったカップと取り替えたんだった。
そして、父に背を向けると一気にそれを飲みきった。
驚いた顔のあたしに向かい、凌は得意げに親指を立ててニッコリと笑ったんだ。

あの頃の凌は、本当に優しかった。
急にできた妹に戸惑う様子も見せずに、兄貴らしく色んな事を教えてくれ、優しくしてくれていた。