それから腕を引いて、力なく壁と僕に寄りかかる彼女を眺める。

首を押さえつける手にそっと指を這わせて、健気な命ごいをしているようで。



愛しいなぁ、なんて思いながら、今度はその腕の付け根に、肩に思いを突き立てた。

添えられていた指が電流でも流されたかのように震えて、僕の腕から離れていく。

塗りたてのルージュはみたこともない形に歪んでから、下顎の力を失ったかのようにだらんと開いたまま止まった。


そこを伝って落ちてきた赤が、ぽたり、と足元へ落ちていく。



あんまり面白い反応ではないな、と思いながら、今度は彼女を壁に縫い付けていたナイフを抜いた。

支えを失った彼女の体は、右のほうへと大きく傾く。
今度は右半身から力を抜かせれば、ちゃんと平行に立つだろうか。

虚ろになってしまっている彼女でもわかるように至近距離でナイフを振って木屑を落としてから、本体も下へ彼女の足の甲へと叩き落とした。
予想通り、右足から力が抜けてちゃんと平行に持ち直す。


見開かれた目から、今度は目から、壊れたように涙が流れ出ていた。
それは口元まで流れると色を変えて、白い肌を汚している。


じゃあ次は、赤い涙を流させてみようかな。

刺さりっぱなしだったナイフを彼女の肩から抜いて、冷ややかな視線とちょうど交わる様に構えた。






ぱちり、と音がなるくらい勢いよく瞼が開く。

枕元で騒ぎ続ける目覚まし時計がまるで自分の心音のように感じて、妙な気持ち悪さに襲われた。


そういえば、今日は彼女と映画にいく予定だったっけ。

そう思って、鞄の中に財布と携帯電話、ハンカチなんかも放り込む。


あぁ、それから、これを忘れるわけにはいかない。


ベッドの下を漁って出てきた、美しいシルバーに輝くナイフを数本、そっとタオルにくるんで一番上に乗せた。



さぁ、あの楽しい夢を、この手で。