泣き出した綾に抱きつかれたまま床に転がる高瀬を、美波が上から見下ろす。

「…怪我は?」

「もう塞がった。でもしばらく腕動かないだろうな」

鈴木の持っていた純銀製のロザリオを押し当てられた場所は火傷の痕のようになっている。
それももうしばらくもしないうちに消えてしまうだろうが、左腕は痺れたように動かない。

「あの人、っなんで…?高瀬さんはなんにも、してないのに…」

「…鈴木は俺の見張り役だから」

「み、はり…?」

泣きながら鈴木を責める綾の頬を流れる涙のあとを辿るように撫でる。
抱きついている綾ごと体を起こして、高瀬は笑ってみせるが疲労の色は隠せない。

「そう…飢えた吸血鬼が暴走しないように」

「高瀬さんは、そんな危ない人じゃないっ!」

顔を上げて怒鳴るように言った綾に、高瀬は苦笑を浮かべる。
首筋に残るまだ塞がりきらない傷口を指で撫でる。

「お前なぁ…初めて会ったときのこと忘れたの?」

「…高瀬さんが記憶消しちゃったから覚えてないもん…」

嘘つけ、と綾の頭を軽く叩いて笑えば、涙を拭きながら綾も小さく笑った。

「仕事しろってんだよ…あのクソガキ」

「…仕事させないであげてよ」

二人を見ていた美波が静かに口を開く。

「仲良いんだから、ケンカしないでほしいわ」

心配するこっちの身にもなってよ、と美波は不機嫌に高瀬を睨む。

「だから、それは鈴木に言って…っと」

「高瀬さん…っ?」

苦笑しながら高瀬が立ち上がろうとするが、よろけて床に座り込んでしまった。

「あー…無理だ、力入らねぇ」

「怪我…?」

「ん、思ったより効いてたみたいだな」

呆れたような表情の美波とは裏腹に、心配そうな綾はまた泣き出しそうに涙を溜める。

「だから、泣くなって…今は慰めてやる元気ないんだから」

「っ…ごめ、…だいじょぶ?」

「少し休めば平気だから。な?」

涙をこらえて頷いた綾の頭を撫でると、困ったように笑った。