蓮は最後の最後まで引っ越すことを私にしか言わなかった。


そして今日、蓮は北海道へ行く。


また大切な人が去っていく。


…そんな悲しみはもう嫌なのに。


その時蓮に渡されたのがネリネの花だった。


ネリネには二つの花言葉がある。


『また逢う日まで』


『幸せな思い出』


蓮と遊んでいる毎日は私にとっても幸せな時間だった。


けれどもこれから少なくても冬休みまではそれもできない。


「実月!」

窓の外から声がする。


また蓮がインターホンを使わず呼んでいるのだ。


「蓮?暑くないの?」


7月ももう後半なのに蓮は長袖を着ている。


今日の大阪でも気温は32℃。


タンクトップ姿でも汗がだらだら垂れてくる。


「北海道って結構夏でも寒いんだって」


天気予報では今日の北海道の気温を25℃と告げている。


そして蓮がその服を着ているころで別れまでの時間も告げている。


あとタイムリミットは数時間。


「あ、私降りるから待ってて!」


窓から離れる。


ダメ…ゆっくりとなみだが落ちてくる。


わがままはいえない。


蓮は今から北海道に行くんだから。


急いで涙をふき取り玄関へ走った。