「何度か見かけたことがあるんだ」
はにかんだ笑顔を見せる男に、心がざわつく。
一歌は自転車通学をしていて、確かにこの病院の前を通りかかる。
けど、ふつう、その辺にいる高校生をいちいち覚えてるか……?
俺の視線に気づき、久保は弁解するように表情を崩した。
「自転車に乗ってるところを見たことがあってさ。カゴからネギが伸びてたんだ」
「は? ネギ?」
「そう。買い物したんだろうな。女子高生とネギっていうギャップがひどく印象的でさ」
その後も何度か見かけることがあり『自転車の女子高生』としてすっかり記憶に定着したらしい。
「だから今日、君の付き添いで来てて本当にびっくりしたよ」
久保の弾んだ声に心臓が嫌な音を立てる。