「なんでこんなモン持ってんだよ」


周囲を窺いながら声をひそめると、孝太はニヤケた顔をさらに緩めた。


「へっへー。実は俺……」

「ま、まさかやったのかお前! 沙耶ちゃんと――」


この間、本屋に案内してやったばかりの小柄な彼女を思い出す。と、孝太はぶんぶんと首を振った。


「ま、まだだけど、夏休み中にチャンスあるかと思って買ったんだよ」

「夏休みって、まだだいぶ先じゃん」


そう言うと孝太は大真面目に「事前準備が大事なんだよ」と呟いた。


「お守りがわりに瑞貴に一つやるよ」

「なんのお守りだよ……」


呆れている俺に、孝太は白い歯を剥き出してキシシと笑った。