「思い過ごしなんじゃないかな。ほら、あたしってきっと、瑞貴にとって一番身近な女だから――」


そう、思い過ごしだったらどんなによかったか。


「そうじゃないことくらい、自分で分かってる」
 
 
泣きそうな顔で別れを告げてきた北原の顔が思い浮かんだ。
 
あの別れがあったから、今の俺がいる。


北原は、短い期間とはいえ、一歌よりもずっと身近な距離にいた。



それでもダメだったんだ。


むしろ、一歌の存在を余計に意識するだけだった。



北原を傷つけて、ようやく自分がどこを向いているのか気づいた。