夕食時、
「一歌はもうどこに嫁に出しても恥ずかしくないなぁ」
父親が一歌に男の話をふった。
「なんだ、まさか彼氏でもいるのか?」
彼氏……。
頭の中に浮かんだのは、いつか玄関先で見かけた背ばかりひょろりと高い、軽そうな男だ。
思い出したくない光景が脳裏をよぎり、肺の奥がすうっと冷えていく。
「あの…う、うん」
一歌は俺の方を気にしながらも、父親の質問に答えていく。
彼氏だなんて、よく言うよ。
たいして好きでもないくせに。
一見静かな湖が、湖底から徐々に沸騰していくみたいに、だんだん腹が立ってくる。