「…らんねぇよ」


振り返ると、一歌は不思議そうに俺を見ていた。
ぐらぐらと、胸のうちが揺らぐ。


嫌われるのは怖い。
 
けど、あのキスを、なかったことにされるくらいなら―――


「一歌」


ゆっくり近づいて、逃げ道を塞ぐように正面に立つ。
一歌は固まったまま動かなかった。ただまっすぐに俺を見上げている。


「もう一回――していい?」


薄く茶色がかった髪に手を伸ばし、その目に映る感情を懸命に探る。


「イヤだったら、拒んで」 


そんな言葉で自分に逃げ道を与えて、


「一歌――」
 

薄く色づく唇を、塞いだ。