激情に揺れる心を押しとどめて俺はゆっくりとヘッドフォンを外した。
そのまま平静を装って静かに口を開く。
「……何?」
さっきより数段落ち着いた俺の声に、一歌はしどろもどろになりながら「夕飯だ」と説明した。
「……わかった。すぐ行く」
答えると、怯えるような目線を残して一歌はドアを閉めた。
階段を下りていく足音を聞きながら、胸の奥が灰色にかげっていくのを感じる。
怖がらせてどうすんだよ。
本当の気持ちとは間逆の行動しか取れない自分こそ、忌々しく、腹立たしい。
自己嫌悪に染まった体から、大きなため息が1つ、ノートの上に零れ落ちた。