揺らぎの正体に気付いても、何かが変わるわけじゃない。
むしろ気付かない方が幸せだったかもしれない。
一歌と顔を合わせるたびに身体が熱を持ち、心臓がせわしなく揺れはじめる。
まるで乾いた心が水を求めて手を伸ばすように、俺の芯が一歌に触れたがる。
それを隠すために取る態度は極めて不自然で。
意味もなく怒鳴ったり、無視をしたり、突っかかったり。
一歌の目には、とんでもなく煩わしい弟に映っていたに違いない。
それでも、
そんな態度を取っていても、突き放されることはないと知っていて、
家族という繋がりを逆手にとって、
歪んだ心を一歌にぶつけ続けて。
それでも気付いてほしいなんて思いながら。
何が一番いい方法なのかもわからないまま、ただ本音を隠し続けていたから――。
――中3に上がったばかりの春、一歌に男ができた。