一歌ちゃん。


小さい頃はそう呼んでいた。


優しくて可愛くて、大好きな一歌ちゃん。


大好き、とか、口に出せなくなったのはいつからだろう。

俺の芯から一番遠い、家族という存在を自覚したのは――



本棚の隅で埃をかぶっている古いアルバム。自室で机に着いたまま、日に焼けて薄く変色したそれを、じっと見つめた。


……母さんが生きてたら違ってたのかな。


8歳のときに交通事故で死んだ母親は、心臓の揺らぎに戸惑ってる息子を空の上から見てるだろうか。



母さん、


心臓が変だよ。


一歌がそばにいると、心臓が――