「……まだ」


気まずそうに呟く孝太に周囲はホッと緊張を解く。

他のクラスはどうだか知らないけど、うちのクラスでは未だに『経験した』という男の話を聞かない。

経験談を詳しく聞きたい俺たちは、だれが特攻隊長になるのか日々周囲に目を光らせている。

そして今のところ特攻隊長の最有力候補が孝太だ。


「なぁんだ、まだかよ。さっさとヤれって」


仲間の一人が揶揄するように言うと、孝太は顔をしかめて声を尖らせた。


「うっせーなー、なかなか難しいんだって。場所とかタイミングとかさー。でもこないだチューはしたし」


その告白で当然のように場が沸き立つ。