「全然想像つかないなーそれ」
 

みんな考えることは同じらしい。
 
南沢が大きな目をぱちくりする。


「相手、どんな人なんだろ。あの杉本先生を骨抜きにするなんてさ」
 

無邪気な質問に、東谷が濃い眉をひょいと上げる。


「さあなー。運命っつってるくらいだからな」

「運命、ねー」
 

思わず笑ってしまうと、濃い顔に睨まれた。


「なんだよ瑞貴、馬鹿にしてんのか? お前の指導医だろー」
 

東谷は普段てきぱきとしていて優秀なのに、酒が入るとだれかれ構わず絡む。
 
もちろん深酒のような愚行はしないけれど。


「別に、杉本先生を馬鹿にしたわけじゃないって」

「鼻で笑ってたじゃん」


「運命って言葉が嫌いなんだよ」
 


俺が言うと、東谷はビールのジョッキを勢いよくテーブルに置いた。