「まあ確かに手術の手さばきは凄いけどさ」
もちろん、研修医は見てるだけか、鈎引きをするだけだ。
「杉本先生っていやさ、百年の恋。知ってっか?」
それまで黙っていた東谷が赤い顔でつぶやいた。
「百年の恋?」
聞き返すと、濃い顔をにやりと歪める。
「なんでも医事課の女に夢中らしいぜ」
「あの先生が? まさかー」
安西ののんびりした声に、ほかの連中もうなずく。
頭髪のことを除けば見た目は普通だし、敬遠されることはないだろうけど、
ナースとすら雑談していない杉本先生が普段ほとんど接することのない医事課の事務に夢中というのも不思議な話だ。
「去年のレセプトんときに一目ぼれしたんだと」
得意げに言うと、東谷はビールを呷った。
「女に興味のなかった人がいったんハマるとやばいよな。すっげぇ盲目で、一方的に押しまくってるらしいぞ」
「へえ」
あの杉本先生が。