串を手にしたまま、岡島先生がポーカーフェイスで携帯に出た。


「はい岡島。ええ、はい」
 

すぐ行きます、と続けて、立ち上がる。



「悪い。吉田さんの容体が急変したから戻るな」
 

テーブルの上に一万円札を2枚置くと、颯爽と店を出て行った。
 

おごり方もスマートだ。





「いいよな南沢。岡島先生が指導医でさー」
 

研修医仲間の安西が、はれぼったい瞼を上下させながらつぶやく。
 
性格がのんびりしているせいか、安西は看護師や上級医から怒鳴られることが多い。



「いや、あれでいて結構怖いんだよ」
 


南沢は少年のような童顔を困ったように崩す。



「瑞貴の、杉本先生だっていいじゃん。あのゴッドハンドを常に拝めんだろ?」