「なに言ってんだ、そういうのはどんどん経験しないと」
南沢の指導医、岡島医師が焼き鳥の串を振り回す。
「けど、心の準備ができないと」
研修医の1人が言うと、
「そんな余裕あるわけないだろ」
岡島先生は豪快に笑った。
目元の笑い皺が優しげな印象で、医師からも患者から信頼が厚い。
外科の中でもこうやって俺たちを飲みに連れて行ってくれる先生は、この人くらいだ。
「俺たちが若いころなんか、研修医ひとりで当直なんて当たり前だったんだぞ」
今は医療事故を防ぐために、経験の浅い研修医ひとりでの当直は禁止されている。
「お前たちはワケもわかんないまま、とにかくやるしかないんだよ」
そのとき、着信音が響いた。
病院支給の携帯電話の音に、研修医全員がぎくりと身体を震わせる。