「沢井」 塾の階段を上って教室に入ろうとしたときだった。 声をかけてきた白衣の男は、数学の担当で、学年主任だ。 「お前、顔色悪いぞ」 いかつい顔が目の前に迫って、思わず目を伏せる。 「具合悪いなら、今日は帰れ」 俺を廊下の隅に誘導すると、数学講師は声を落とした。 「お前ここんとこ、成績が下がってるだろ。このあいだの模試の結果も散々だったし。体調が悪いんならちゃんと直しておかないと、後々響いてくるぞ」