「龍也センパーイ!早く手伝ってください。マイクの位置ここで良いですかぁ?」

愛らしい声に思わず頬が綻び、いつもは冷たい瞳に柔らかな光が宿る。

クールビューティと言われる彼が微笑みを見せるのは唯一彼の愛する女性、蓮見聖良(はすみ せいら)の前だけだ。

そして今、聖良はマイクの長いコードと格闘中で、放っておけばぐるぐる巻きになりそうな気配である。

何気にドンくさいのだが、そんな仕草も可愛いと思えるのは惚れた弱みとしかいいようがない。

とにかく何をやっても可愛いし、どんな表情もそそられてしまうのだから始末が悪い。

コードが足に絡みつき、よろける聖良に慌てて駆け寄り、間一髪で抱きとめるとフワリと立ちのぼる甘い香り。

ここで人目が無かったら今すぐに、その艶やかな唇を貪り喰っていただろう。

二人きりの時は自制の利かない龍也だが、さすがにこの場では生徒会長という立場上ポーカーフェイスを崩す事はできない。

だがしかし、今日に限ってはそれもどこまで持つか少々自信が無かった。

なぜなら…今日は運動会なのだ。

去年の運動会を思い出し、龍也はイライラとした感情に心が侵食されていくのを感じていた。

終わった事を悔いても始まらないが、去年の事を思い出す度に、やはり聖良には休んでもらうべきだったと心底思った。