天高く馬肥ゆる秋…。
その言葉に相応しく見事なまでに晴れわたった秋空に、今日の行事とそれに伴う悩みに溜息をつく男が一人。
全国模試で常にトップの成績を誇る秀才、生徒会長の佐々木龍也(ささき たつや)だ。
紫がかったサラサラの黒髪を無造作にかき上げ、切れ長の目を硬く伏せ何か考え事をしている。
整った顔が厳しい表情を更に冷たく見せるため考え事をする彼に近付くものは滅多にいない。
だがその美しさたるや溜息が出るほどで、真にクールビューティといわれるだけの事はあると、誰もが頷くだろう。
やがて大きく息をつくと、ゆっくりと顔を上げ、闇夜を思わせる深い漆黒の瞳で一点を見つめた。
視線の先には頭の痛い問題が元気一杯に走り回っている。
その姿にまた一つ大きな溜息をつき、出来れば台風でも来て中止になってくれることを、半ば本気で願ってみる。
もちろんそんな事あるはずも無く、中止になれば良いと思うのは誠に自分勝手な理由からで、我が侭以外の何物でもないのは良くわかっている。
わかってはいるのだが…。