転びそうになった自分を助けてくれたマスター・茅部がこのはに熱くキモチを伝えて来た。


そこまではハッキリとして記憶にあるのに、今の現状までの記憶がサッパリないのだ。


何故こんなことになったのだろう?



彬が怒っている。



今まで見たこともないくらいの怒り。



何がいけなかったのだろうか?


彬をスキだと言っていたのに茅部に抱き締められていたからか?


でもそんなの、彬には関係ない筈だ。



声をかけることすら出来ない程に怒っている彬にどうすればいいのか解らず黙って着いて来た。










(でもどうしてホテルなの⁈)










煌びやかな部屋。

周りはしんと静まり返っていて自分の心臓の音がやけに響いて聞こえる。



(緊張で吐きそう…。)


チラリと彬を見ると、ベッドに腰をかけうな垂れている。

顔を下に向け膝の上で組んだ手に額をつけているため、表情が読み取れない。




(と…トイレに行きたくなって来ちゃったし…。)



放り投げられる様に床に座らされていたこのはは、自分の身体が冷え始めている事に気付いた。



意を決して彬に話しかける。




「あ…きら ちゃん、

あの…トイレに行っても いい?」




そう言うこのはの声がやけに響いた。



弾かれた様に彬が顔をあげる。




「ああ。別にかまわないが。」




すぐに顔を背ける。



(今…彬ちゃん真っ赤だった…。)





もしかしてこんな状況に彬も戸惑っているのだろうか?



連れて来たのは彬のくせに。



(とにかくトイレが先!どこかしら…。)





少しだけ緊張を解きトイレを探しながら部屋を歩く。



(あ、あった。…って暗いよー!)



スイッチ。


電気のスイッチがあるはず。



探すために振り向いたらすぐそばに彬が居た。



「きゃー!」

「なんだよ⁈」


同時に声をあげる。



極度に緊張していたからあっけなく悲鳴があがるこのはの口を、彬の大きな手が塞ぐ。



「スイッチわからねぇかと思ったから教えに来ただけだろうが!」




ふがふが。




返事をしようにも大きな掌が邪魔だ。




両手で掴み引き剥がすとこのはは息を吐いた。



「うん、わかった。ありがと。ごめん…なんだか緊張しちゃって。」



カチリ



と、トイレ内の照明が点く。



彬の左手がスイッチを押していた。



「ごめん。」







そう言うと彬はこのはから離れた。





不安な気持が爆発しそうだったが、何はともあれ、トイレに駆け込んだ。