「加藤。」



仕事の時のように呼べば、ピンッと背筋を伸ばす。


その様が何だか可愛くて、ついつい顔が緩む。

その髪に手を伸ばすと、ふわりと良い香りがした。



「陽萌。」



そう呼べば、ふと気を緩める。

ぼんやりと何かを思案している様子の加藤の腕を引いて、俺の腕の中に閉じ込める。



「…課長、香水臭いです。」

「随分とくっつかれたからな。」



加藤の頭に顎を乗せ、答える。

不意にもぞもぞと動く気配がして、その顔を見下ろすと、丁度俺を見上げた加藤と目が合う。



「…陽萌。」



あぁ、やっぱり、俺はこの子が好きだ。



「課長。」

「ん?」

「嫌です、こんな匂い。綺麗所の香水の匂いなんて。」



突然のことに、大分動揺してしまった。

加齢臭でもするのかと、割りと本気で焦った…。



「お前は、思ったことをストレートに口に出しすぎる。」



不意に、加藤が俺に抱き着いてくる。

加藤からなんてことは初めてで、嬉しさと緊張が同時に込み上げ、押し寄せてくる。


そんな加藤をしっかりと抱き締めながら、名前を呼ぶ。

返事はあるものの、顔は上げない。


そんな彼女の耳元に唇を寄せ、今までちゃんと伝えてこなかった言葉を、初めて口にした。