「お邪魔しまーす…。」



微妙な遠慮をしながら俺の部屋に踏み込む加藤。


結局、加藤は俺の部屋に来ることを選んだ。

コイツは、気付いているんだろうか。観点はともかく、たった今、俺と今泉を天秤にかけたことに。

そして、俺を選んだことに。


部屋についた露天風呂に無邪気にはしゃぐ加藤は、やはり無防備すぎるんじゃないだろうか。



「もう少し落ち着け、餓鬼じゃあるまいし。」



そう言うと、少しむくれる。



「…陽萌。」



ウエストに左腕を回して、加藤に身を寄せる。



「お前は馬鹿だ。」



窓ガラスについた彼女の右手を、自分のそれで覆うようにしながら、指を絡める。

ふと目が合ったかと思うと、一瞬で反らす。それがまた、堪らなくいじらしい。



「簡単についてくるな。」



そう言って、加藤の首筋に顔を埋めると、途端に慌て出す。

こんな事もらお前なら慣れているだろうに。



「っ、課長…っ。」



ふと、俯く加藤。

あまりに切なそうな声を出すから、俺は加藤の首筋から顔を離したり



「我慢するのも大変なんだ。」



すでに、我慢しきれていないんだ、こっちは。


腹に回した俺の腕を、空いた左手でギュッと握り締める。

俺の腕から逃げ出すとら加藤は露天風呂へと駆け込んだ。