俺は母子家庭に育ち、母は看護士で家にいない日もある。だからこうやって、小さいころから晩飯を慎也の家で食べるときがある。

慎也の家は、俺の家とは違う。
父親がいて、弟がいて、暖かい家庭。


何度もうらやましく思った。何度もここに住みたいと思った。
子どもだった、俺は。


慎也の部屋に入る。

慎也の窓から見る俺の部屋は、暗い。

借りてたモノを机に置く。


その脇に、女の子向けの花のストラップ。

裏をみる。

〈サチミ〉

戸野沙知美のだ…
なんでここに…



「今帰ったよ~!」

慎也が部屋を開けた。

慌ててそのストラップを自分のポケットの中に隠す。

「…どしたん?」

見られてない。よかった。

「いや、何でも。…借りてたやつ返すわ。」

「ああ!忘れてた…そうだ波、今日飯食ってくんでしょ!?」

「おう。」

「母さん、めっちゃ張り切ってた。」

「そっか…俺着替えてくるわ!」

慎也の部屋を出て、自分の家の玄関を開ける。

ストラップを持ってきてしまった…

これはヤバイよなぁ~
バレるよなぁ~


でも、俺は返す気なんて多分ない。


知らない…知らないフリすりゃいーんだ。