俺は立って、鞄を持つ。

「小和田?」

荒谷が心配そうな顔をしてる。

俺は少し笑って、教室を出る。


戸野と目が合う。

何か言いたそうだった。



その横を俺は通りすぎる。







玄関に来ると、雨の音と雨の匂い。

傘を持ってくることを忘れていた。



濡れて帰るのもいい。


外に出る。

雨が冷たい…



「小和田くん!!」


振り向かなくても分かる。

戸野の声だ。


「来んな!!」

それでも、こっちにこようとする戸野の足音が聞こえる。


「来んなって!」

やっと足が止まる。


「初めてケンカしたんだ…慎也のこと殴ったの初めて…加減わかんなくてさ、強く殴っちゃったかな?…アイツもむちゃくちゃだよ。いてーっつーの…」

「…小和田くん…大丈夫?」

「何が?…大丈夫だけど……だって…これでよかったんだよ…ぶっちゃけ言うけど、男が男好きなんて…気持ちわりぃだろ?………これで…」


涙が







流れた。



何十年の涙。



こらえきれなかった。



雨が流してくれた。





俺の前に影。



戸野だった。