「とりあえず、何か飲む?」

「……未成年な自分が憎いよ」

「端から酒なんか飲ます気ないよ」

「えー、腹わって話したいし」

「まあ、俺は呑むけど」

「翔ちゃん、酷い」


 酷いのはどっちだよ。

 思いの外、ズカズカと一気に踏み込んできた薫に内心毒づく。

 端から見たらじれったく思うであろうことはわかっている。ただ、俺だって考えなしなわけではない。思うところは様々ある。

 小言は、それを話し終えてからにしてほしいものだ。

 缶チューハイと麦茶を取りに行きながらどう話そうかと考えを巡らせる。コップに氷を入れたときの、カランという済んだ音に、少し冷静になれた気がした。

 相手は年下のいとこだ。幼い頃から可愛がってきた、弟も同然だ。ムキになってはならない。

 そう言い聞かせながら薫の前に麦茶の入ったコップを置く。


「…ごめんね」

「え…?」


 缶のプルタブに手をかけながら、またもや予想外のセリフに驚く。

 俺なんかより、薫の方が大人だ。

 酒には口をつけずにテーブルに置く。

 俯いて、かすれた声で薫が続けた。


「翔ちゃんにだって色々事情とかあると思うし、押しつけがましい言い方したりして……ごめん。怒ったよね」

「そんくらいで怒んないよ。ほら、麦茶」

「うん、ありがとう…」


 汗をかいたコップを手に取った薫の潮らしさに調子が狂ってしまう。

 どう話したものか。沙苗とのことを。


「翔ちゃんは、俺のライバルだったからさ」


 麦茶を飲み干して一呼吸つくと、薫がへらっと笑いながらそう言った。こういう笑い方は姉によく似ている。声はもうかすれてはいない。


「過去形なんだ?」


 これは自分から切り出すよりもまず、薫の話を聴くことにしよう。

 少しだけホッとしている自分がいた。

 情けない。


「だって沙苗ちゃん、翔ちゃんにばっか懐いて俺のこと構ってくれなくなったんだもん。なんか悔しくてさ。俺の姉さんなのにな、って」

「うん」

「でも、翔ちゃんが沙苗ちゃんのことすきなんじゃないか、って気づくような年になってからは翔ちゃんが不憫で不憫で…」

「…」

「鈍感でしょ?あの子。それで応援したいなって思うようになって。俺だって翔ちゃんに懐いてる自覚はあるし」