慎司はこの数ヶ月忙しい日々を過ごしていた。


正確には忙しくしていた。


スケジュールが許す限り手術をこなし、夜勤も入れてもらっていた。


本来そんなに夜勤には入らないのだが家にいたくなかったのだ。


美空から別れを告げられてからまともに自宅には戻っていない。


美空の香りが残っているベッドで寝ることもない。


「星野先生。藤原さんが…」


「またか…はぁ…後で行くと伝えてくれ」


ナースにそう告げると踵を返し自分だけの場所へと向かっていった。


真夏の屋上は直射日光がキツいが日陰を選び座り込んだ。


ろくに最近寝ていないせいか偏頭痛がひどい。


「まったく俺は何をしてるんだ…」


目頭を押さえ大の字に寝ころんだ。


「美空…」


あの日から忘れたことなどない。


別れを告げた美空の瞳は涙で一杯だった。


検診にも来ていない。


「美空、もう一度君の笑顔がみたい…」


大きな入道雲が迫ってきていた。


夕立が来るか…


慎司は意を決した様な表情で流れる入道雲を見つめていた。