診察室は目の前に6診あり、慎司は最後の6診に入っていった。


待合室も長イスがおいてありかなりの人数が座れるようになっている。


時間も14時を回っているせいか、そのイスに座っているのは美空を合わせても20弱ぐらい。


ざっとみても皆私より年上だなぁ。


当然待合室で和気あいあいと他人と喋れるわけでもなく、持ってきていた小説に目を通し始めた。


女性検死官が活躍していく話し。


私には縁のない才色兼備の主人公。


今度生まれ変わったらバリバリのキャリアウーマンで誰もが憧れる女性になりたいと心に思っていた。


あまりにも小説に没頭していたせいか、名前を呼ばれたのも気が付かない。


「…さん?飯田美空さんいらっしゃいますか?」


はっとして小説から顔を上げ返事をした。


そこには小柄な可愛らしいナースが微笑んでいる。


「診察室へどうぞ」


可愛らしい…その言葉がピッタリで、そんな人と働いている慎司に少しの焼き餅と不安が押し寄せた。


「飯田さん?中へどうぞ」


再度促され、自分が立ち尽くしていたことに気が付いた。


「あっ、はい。すいません…」


小声で謝り可愛らしいナースの脇を通り過ぎながら中へ入ろうとしたとき


「最低な女」


えっ?


咄嗟に振り返り彼女を見ると微笑んでいるだけ。


聞き間違い?でも、今確かに…


「そこで立ってないで中へ入ってください」


聞き覚えのある優しい声が部屋の中から響いてきた。