長い入浴を終えて、浴室の戸口から顔だけ出し
辺りの様子を探る。
「……」
よしっ!誰もいない。OKだ。
私は、のそりと浴室から出た。
自分のやっている事が情けなくて溜息をつく。
でも、まだまだ油断は出来ない。
相手は神出鬼没の神様だ。
何処でひょっこり顔を出してくるか解らない。
注意深く辺りの気配を探りながら、
居間へと向かう。
そうまでして、私は銀狼と顔を合わせたくなかった。
人気が無い事を確認して
居間の襖に手をかける…。
そして用心深く襖を開いた。
「……はっ!?」
銀狼の瞳と私の瞳が合った。
そして、こう言わずにはいれなかった…。
「…な…何してんの…?」
いつも気だるさを漂わせ、ふてぶてしい態度の銀狼は
この時、ちゃぶ台の前にキチンと正座し、私を見上げていたのだ。
「…長い入浴だったな」
そう言いながら、銀狼の視線がウロウロと忙しく動き出した。
なんだか、いつもと違う雰囲気だ…。
「湯加減は丁度良かったか?」
「…うん」
やっぱり何処かおかしい…。
二人の間に沈黙が流れる。
「…き…今日は、何をしていたのだ?」
「家の掃除」
銀狼の態度が明らかによそよそしい。
「…そ、そうか!道理で綺麗になっていると思った!」
銀狼の笑顔が引きつっている。
やはり……。
何かを告に来たのか……。
「ごめん。あたし、疲れたからもう寝る…。
今日は帰ってくれる?」
今は……
何も見たくないし、何も聞きたくない。
そう告げて隣りに続くおばあちゃんの部屋へ行こうと
襖に手をかけた時…
銀狼の大きな手が、私の手に重ねられ
その動作を止められた。
「…お…お前に見せたいものがあるっ!」
銀狼は突然そう告げると、
有無を言わさず私を抱きかかえ
「ズカズカっ!」
と、家の外へと出た。
「ちょっとっ!!
突然何なのよっ!?」
訳が解らず暴れる私に、銀狼は
「うるさい」
と、一言告げると
星屑が散りばめられた真っ黒なビロードの夜空へと
舞い上がったのだ。