鳴人は瞬き一つせず、真っ直ぐ私を睨んでくる。


私は、その瞳の放つ殺気につい目線を反らしたくなってしまう…。


「…こんなくだらない考え方しかできない君が人柱だなんてね……。

 僕、笑っちゃうよ」


「………」



「敵か味方か?

 じゃぁ、僕が味方だったら君はどうするの?

 その逆だったら?

 答えられないんじゃない?

 君自身がこれからの自分の身の振り方なんて全然考えてないんだから…」



私は鳴人の言葉にドキリとさせられた。



「…君は、自分がどうしたいのかも解らないんでしょっ!?

 そんな君に敵も味方もあるわけないじゃん?

 馬鹿なの?」


 
「……」


私に対する苛立ちを真っ直ぐぶつけてくる鳴人に

何一つ言い返す事は出来ない…。

私は、呆然とそこに立ち尽くし、鳴人に言われるがままになっている。



「君みたいな奴、見てるだけで、

 ほんっとーにイライラするんだよねっ!

 なんでもかんでも、周りのせいにして

 『私は何も知りません』みたいな顔する奴っ!!」



「……」



「…君が何をどう思おうが、すでに物語は始まってるんだよ。

 もう、誰にも止める事はできない。」



鳴人の言う通りだ…。

私は身の周りで起こる出来事に翻弄されるばかりで

そこには私の意志はなく、

私が何をしなくても、

何の因果か事は進んで行き

その事に苛立ちにも似た腹立たしさを感じるわりには


…全てを周りのせいにしていた…。


実際に、自分がどうかしようなんて、考えた事もなかった…。


鳴人は私の心を見透かしたかのように冷たく言い放つ。


「…まずは、自分がどうしたいか?でしょ??

 それも解らないのに、君に敵も味方もないのは

 当然の事だよ」



目が覚めたような気分だった…。



「……鳴人は何故そんな事をあたしに教えてくれるの?」


鳴人は大きな瞳を少し細めて答える。


「…僕の全ては山神様だ。

 別に君の為なんかじゃないよ」


その表情は何処か儚さを秘めていた。


「…鳴人…」


「ほらっ!!どうせ、昨日から何も食べてないんでしょ!?

 朝食持ってきたからそれ食べて!
 
 山神様の大切な人柱に飢え死にされるわけにはいかないしねっ!」



「…何か…ありがと。

 まだよく解んないけど、ちょっとだけ目が覚めた気分」


お礼を言う私に鳴人は

またすぐに冷めた表情を浮かべチラリと私に視線を移すと


「……君は、やっぱり馬鹿だね」


と一言付け足し、「じゃあね」と

振り返りもせずこの場を去って行った。