私から力を吸い取った山神の身体が徐々に金色に輝き出す。


そして彼は最後にもう一度私を見て言った。


「これから運命はお前をもっと過酷な道へ導いて行くだろう。

 道が解らなくなったら、また俺を訪ねて来るといい。

 俺はお前の敵ではない」


翠緑の瞳は真っ直ぐ私を捉えている。


「どういう事…?」


「言っただろう?いずれ解る」


口を開こうとする私の唇に山神は

自分の人差し指をそっとあてがった。


その行為に不覚にも私の心臓は高鳴る。


思わず山神の翠緑の瞳から目をそらす。



その一部始終を、鬼の形相で睨んでいた

銀狼の堪忍袋がついに切れた。



「山神っ!!真央から離れろっ!!」



叫んだ瞬間、銀狼の掌から蒼白い発光体が

私と山神めがけて凄まじい勢いで放たれた!!



「ちょっ…!!銀狼っ!!うそっ!?」



恐怖に顔を引きつらせる私を傍らに

山神はスっと片手を伸ばし銀狼に向けた。




蒼白い光と、金色の光が私の目の前で激しくほとばしる!



その光の中で山神は銀狼を見据えながら

私に語りかけた。


「もう行け。今宵の話は銀狼に言うでないぞ」


「どうして…??」


山神の口元がわずかに吊り上がるのが見えた。


「その方が面白いから…」


「…え……??」




「どんっ……!!」


その瞬間……


山神は私を眼下の銀狼の方へと突き飛ばした。




私の視界が宙を舞う…。




「どさっ!!」



力強い両腕が私を抱きとめた。



「銀狼っ!!人柱は返した!今宵は引けっ!!」




私を抱く銀狼の腕に力が込もる。



「真央っ!!来いっ!!」


銀狼は一言そう叫ぶと、

私をお姫様抱っこで抱きかかえ、

山神に鋭い視線だけ残し、

風のように空へと駆け上った。


「山神っ!!この借りはいつか必ず返すっ!!覚えとくんだなっ!!」


「ふふ。いつでも来いっ!俺はここに居る!」




風に乗り銀狼が飛び立つ。


山神が…山神神社がどんどん小さくなっていく。


「ひゃあっ!!」


余りの高さに、恐怖から強く銀狼にしがみついた。

銀狼がどのような表情をしているのか気になって

彼の胸の隙間から銀狼を見上げる。


…銀狼は私を見ない。


変わらぬ険しい顔つきで前だけを見ている。


その時…



「どどぉぉーーん!」



銀狼の肩ごしに、地を割るような音を響かせ

花火が舞い上がってくるのが見えた。

地上から見る花火と違う角度で見る花火…。




私は、不謹慎ながらも

彼の肩ごしに見えるこの花火を

とても美しいと感じたのだった。