「久しぶりだな。銀狼…

 起き抜けに早速俺の社を壊す気か?」


山神は余裕の表情で

眼下の銀狼を見下ろす。


「ふん……。人柱を返さねば

 お前ごとこの社を吹き飛ばすまでだ…」


相変わらず物騒な事を顔色一つ変えず言ってのける銀狼……

これではどちらが悪者か解らない……。


「くっくっ。お前らしいな。

 俺も今お前にここで暴れて貰っては困る」



「ならば、大人しく真央を返せっ!!」



銀狼は今にも噛み付きそうな勢いで山神を睨んでいる。


「お前に言われて、はい、そうですか、と返すものか。

 俺もタダでは返さん」


そう言って山神は、ふんっと鼻を鳴らした。



―――えっ!?今、鳴人に返すって言ってたのに!?

銀狼が山神を挑発するからだよっ!!


山神の言葉に焦って私は慌てて彼を見た。



その時………



冷たい瞳で銀狼を見下ろしていた山神の視線が動いた……。








……それは本当に一瞬の出来事だった。






銀狼にも負けてない端正な顔立ちの……


山神の瞑られた長いまつ毛が私の頬を撫でる……。




その余りに近い距離に私は目を見開き凝固するばかり……。





その瞬間合わさった唇から

得も知れぬ快感が体中を駆け巡る……。



「……っうっ…ふぅっ…!!」



凄まじい快楽は私の意思に反して

身体を無意識によじらせた……。




「山神っ!!貴様ぁっ!!」



銀狼の殺意の込められた怒声が耳を突いた時

山神のひんやりとした唇がふいに熱を持ち

私の唇から離れた。



その離れ際、山神は、低く、よく通る声で

私の耳元で何か呟いた。




「…栄養補給」





―――栄養補給っ!?



―――この事だったのっ!?



魚のように口をパクパクさせる私を見て

山神は苦笑している。



「お前、自分が人柱なのを忘れていただろう?」



…返す言葉もない。


さながら私は、この二人にとっての

栄養ドリンクといったところなのだろう。

迷惑極まりない話だ。