「『夏代子~っ!!』

 …じゃなかった、『真央~~っ!!』」


今までの緊迫感を無にするかのような

怒声のような間抜けな呼び声が遠くから近づいてくる。


「……ぷ…くくく」


それを聞いた山神は声を殺して笑った。


「……相変わらず……

 大馬鹿物だな…」


山神は意味深な笑いを含みながら横目で私を見てくる。


「な、何よっ?」



私は見透かされたような気になり、

思わず顔を赤らめる…。



「いや…。何でもない…。

 では、大事な社を奴に壊される前に

 出迎えるとするか」


そう言って、山神は私をひょいと抱きかかえて立ち上がった。


「えっ!?ちょっとっ!!」


「俺とて、目覚めたばかりだ。

 栄養補給せずに奴の相手は大変だからの」



―――栄養補給??


言ってる意味が解らないまま

山神は米俵でも担ぐように私を担いだ。



そのまま外に出て行こうとする山神に

険しい静止の声をかけたのは鳴人だった。


「山神様っ!何を!?」


「ふふ……尽力してくれたお前には悪いが

 飼い犬にここでこれ以上暴れて貰っては困る。

 ひとまず人柱は奴に返すとしよう」


「そ…そんな…!!」


すれ違い様に鳴人の

茶色いビー玉のような瞳と私の目が合う。


「鳴人……」


あの可愛らしかった茶色い瞳は

同じ物とは思えぬ程、

刺すような冷たい眼差しを私に向けていた。



―――なんで……??



「どおおおおおーーーんっ!!」



けたたましい破壊音がまた何処かで響いた。


私を抱きかかえた山神は

あっという間に屋根の上へと躍り出た。





「銀狼っ!!人柱はここだぞっ!!」




「真央っ!?」



銀狼が私を呼ぶ声がする。


顔を上げると、


そこには、蒼白い光を纏った鋭い目をした銀狼と…


白い光を纏い余裕の笑を浮かべた山神が対峙していた…