私はそう一言叫ぶと、おもむろに近づく銀狼の唇を
両手でグイっと押しのけた。
銀狼は何が起きたのか理解できない様子で
瞳をパチクリさせながら
まだ、私の腰にスラリと長い腕を絡ませている。
「ちょっと‥、こんな事してる場合じゃないんだってば!!
友達が来ちゃう!!」
銀狼はいぶかしげに瞳を細め聞き返した。
「友達??」
「そうっ!!あたし、今からお祭りに誘われているの!」
銀狼の眉間に皺が寄る。
「‥‥祭りだぁ‥‥??」
「うん。6時に迎えに来る事になってるから、もう帰って」
そう言って、私は腰に周る銀狼の腕を無理矢理剥ぎとった。
そして、銀狼を無視してバタバタと出かける準備をする。
「‥‥‥‥」
「‥おい‥」
そんな私に、銀狼が静かに声を掛ける。
「へ??何??まだ居たの??
人に見られちゃヤバイでしょ??早く‥‥」
「お前、ふざけてるのかっ!?」
突然降ってきた銀狼の怒声に動きを止める。
「俺は、お前を他の奴と祭りに行かせる為に
その浴衣を着付けたのか!?」
余りのその剣幕に驚いてキョトンと聞き返す。
「え‥だって‥」
「だってじゃないっ!!俺はてっきりお前が昔の事を思い出したのかと‥‥」
―――何それ‥‥‥。
銀狼の発した言葉に何故かムッとする。
「‥‥浴衣着る理由なんて聞かなかったじゃんっ」
「聞かなかったが、普通そう思うだろう??」
その言葉に益々ムッとした。
「銀狼の普通と、あたしの普通は違うよっ!!」
私に『夏代子』を求める銀狼と
『夏代子』でない事実を知っている私とでは、
思う事が違って当然だ。
「‥‥誰と、何処の祭りに行く‥??」
少し声のトーンを落とした銀狼だったが、
その響きにはまだ十分怒りが込められている。
「‥‥‥銀狼には関係ないでしょ‥」
小学生じゃあるまいし、そこまで事細かに告げて出かける理由なんて
私にはない。
私の素っ気ない返答に怒りを募らせた銀狼が
堪えきれず再び怒声を上げる。
「解ってるのかっ!?お前は狙われてるんだぞっ!?」
―――その時
「こんばんわー」
鳴人の声だ。
「真央ちゃーん、用意できたぁ?お迎えにあがったよー!」
陽気な鳴人の声が玄関先から響く。
「‥‥今日は大丈夫だから‥もう、帰って!」
「待てっ!!‥夏代子っ‥!!」
咄嗟にそう叫んだ銀狼を
私はキツイ瞳でジロリと睨んだ。
「『真央』だって言ったでしょ??」
「‥‥‥‥‥」
そう一言告げて、
私は鳴人の元へと急いだ。