「どうだ??」
鏡ごしの銀狼は、得意気な瞳を私に投げかける。
「…うん……。ビックリした……」
口を半開きにして鏡を凝視する私に、彼は満足そうに微笑む。
「お前の雰囲気には、それがあって丁度良いぐらいだ」
深い藍染の気品溢れる見事な浴衣は
私自身を別人にするような素晴らしい物だった。
そして、私もそのつもりだった。
でも、鏡の中の私は、想像してたものと、少し違う……。
私のゆるふわパーマは、綺麗に結いあげられ
そこには大きな簪が添えられていた。
全体的に白っぽいその簪は、花束のように沢山の花が散りばめられていて、
その中に淡い紫とピンクの花が可愛らしく配置されている。
肩までかかりそうなその装飾は、私が動くたびに
「シャラン、シャラン」
と耳元で涼やかな音を立てた。
そして、その可愛らしい簪は
気品漂う浴衣の雰囲気を
清楚な可愛いらしさへと変化させていたのだ。
なるほど………。
私らしい……。
「これ…どうしたの??」
私は、簪に触れながら銀狼に尋ねた。
「あぁ、昔な…」
「…昔…何??」
解ってる癖に続きをせかす。
「…昔、お前に渡そうとした品だ。
だが、昔のお前には少し子供っぽ過ぎると思って閉まっておいた」
「しかし……」
簪に触れる私の指に、銀狼の指が重なる。
「今のお前 には、それが本当に良く似合う」
鏡越しに映る銀狼は、
普段冷たい印象を与える金色の瞳を優しく細め
愛おしそうに私を見つめていた。
『昔の私』とはおばあちゃんの事だ‥。
『今の私』とは‥紛れもなく私の事だろう‥。
銀狼と出会って初めて、銀狼が『私自身』を見つけてくれたように思えて
なんだか‥‥‥
‥‥素直にその事を嬉しいと感じる私がいた。
「覚えてるか??この浴衣‥‥」
銀狼は私の顎をつかみ、自分の方へと向き直らせた。
「あの時も‥‥この浴衣だった」
銀狼の形の良い唇が近い。
「今の方が‥‥ずっと綺麗だ‥‥」
―――そのままキスされてもいい‥と思った‥‥‥。
「ボーン、ボーン、ボーン‥‥」
ふいに、古びた柱時計が、夕方6時を知らせる鐘の音を響かせた。
その事実にハッとする。
「ヤバイっ!!こんな事してる場合じゃないっ!」
鳴人が迎えに来てしまうっ!!