「そうだっ!真央ちゃんっ!!」



大きな茶色の瞳をくるくると忙しげに動かしながら

私の両手をギュッと掴む。


鳴人の急な動作に驚いた私は間抜けな声を上げた。


「な…何??どうしたの?急に…」


「今日の夜時間ある??」


「いや…ここには片付け要員で来ただけだから…

 それ以外予定なんてないけど…」


鳴人の、私を握る両手に力が込もった。


「今晩、僕の家の神社で小さなお祭りがあるんだ!出店も少し出るんだよ!

 きっと良い気分転換になるよ!おめかしして来なよっ!」



「おめかしって言っても……あたし、こんな服しか持って来てないし…」



そう言う私の姿は、片付け要員らしく、

タンクトップに短パンといった超ラフな格好だ。

‘’どうすんの?‘’と言わんがばかりに

小首をかしげて鳴人を見つめた。



鳴人はそんな私の姿をマジマジと見つめて、

『うんっ!』と、一度大きく頷いた。




「大丈夫っ!!僕、いいもの見つけたんだ!ちょっと待ってて!」



そう言うと、鳴人はドタバタと隣り続きの奥の部屋へ引っ込んで行った。



一体何を見つけたと言うのだろう?

ここは私のおばあちゃんの家なのに、数時間の手伝いで

勝手知ったる家のように鳴人は奥の部屋でゴソゴソと何かを探している。



「あった、あった!!」



と、鳴人は嬉しそうな声をあげ、

再びドタバタと盛大な音を立てながら私の元へ戻ってきた。



「じゃ~んっ!!」




鳴人の掛け声と共に、頭からふんわりと、柔らかく肌触りの良い物が私を覆った…。



「思ったとおりっ!色も真央ちゃんにぴったりだよっ!!見てごらんよっ!」



そう言って鳴人は鏡台を指差した。

私は、訳が分からず言われるがまま、

鳴人の指差す方へ視線を移すと……




「わあぁ~っ……」



思わず私の口から歓声が漏れる。


鏡に映っていたのは、

頭から浴衣を羽織る私の姿。



その姿は確かに私なんだけれど……



昔ながらの見事な藍染のその浴衣は

最近見かけるような派手さはないものの、


淡い色合いの朱色と黄色の椿模様が

深い藍色に美しく浮かび上がり

淡い色彩の椿模様を上品に引き立てていた。



その貴品は、私の雰囲気まで変えてしまったかのように見える…。




「なんか……私じゃないみたい……」



自分で言うのも何だけど、本当にそう思えた。