山々の緑が夜の闇色に染まる頃、
彼の鎮座する山神神社は、いつもより騒がしかった。
巫女姿の美しい娘が彼に酌をしながら尋ねる。
「山神様、今夜は珍しくご機嫌ですね?
何か良い事でもございましたか?」
声の抑揚もなく、無表情な美しい娘を、彼は横目でチラリと見た。
生まれる前より、神に使える事が運命付られた娘。
神である彼の声を聞き、人々の願いを叶えるよう義務付られた娘。
姿形は大輪の花のように美しいが、何が起きても眉一つ動かさない娘。
「ふふふっ」
彼は、楽しくて仕方がなかった。
春の陽射しのように、明るく笑う、あの娘。
「……今日は、野菊を見つけたよ……」
そう言って彼は、つがれた酒を一気に飲み干した。