「…犬神めぇっ!これは、我の獲物ぞっ!!」
「すまんな。この者は、もう、俺の物だ……」
銀狼は、私を庇うように化物と私の間に割り込んでいた。
彼はすました笑みを浮かべ、夜明け色の扇子を優雅な手つきで化物の鼻先へと
真っ直ぐ伸ばした…。
「……祟り神よ……。
ここで引くなら、見逃してやろう……。
引かぬと言うなら、お前の苦しみごと全て、今ここで滅してやろうっ!!」
彼のその言葉を耳にした私は…
ーーーやっぱり、意地の悪い奴だ……、と思ってしまった。
ギリギリの状態の者に対して、ギリギリの二者択一………。
前進しても、退いても、どちらも後悔してしまいそうな、ギリギリの選択……。
「…犬神風情がっ……!!舐めるなっ……!!」
それが、化物の最後の言葉だった……。
祟り神が動き出すより早く、銀狼は扇子を持つ手を大きく振った…。
通常、そこから広がるのはかすかな空気の振動だ。
しかし、そこから生まれたのは、
『ゴオオオオオオっーーー!!!』
という、けたたましい騒音と、眩し過ぎて見ていられない程の蒼白い光の突風だった。
それは、一瞬で化物を呑み込み、突風の吹き抜けた頃には、
その姿はカケラも無く、
そこに残ったのは、悠々と妖しげな笑みを浮かべる銀狼と、
言葉もなく立ち竦む私の、2つの影だけだった。