銀狼は本気だ。
…非情にも、神とは、そもそもそういう物だ…。
そうでなくとも、その冷たい瞳を見ればそれが嘘か真か、嫌でも思い知らされる。
ここで彼を拒めば、私は、この化物に即座に食い殺されるのだろう。
「…さぁ、どうするっ!?」
銀狼が叱咤する。
ーー私は強い意志で彼の瞳を見つめたーー。
銀狼は、私の返答を受けてニヤリと笑った。
「…では、『契の祝詞』をっ!!」
銀狼は、夜明け色の扇子を、私に向かって振り下ろした。
その太刀筋から不思議な光景が広がる。
暗闇に浮かぶ星々…………。
かつて、見た事もない夜空にちりばめられた八百万の星々………。
……………八百万の………………神々の瞬き……………………。
おそらく、それは………
ーーーーー全宇宙ーーーーー。
………後から思えば、私の口から出たあの言葉は、一体何だったのか。
ただその時、私の意志の奥深くから湧き出て来た物には違いなかった。
それは、遺伝子のように遠い昔から当たり前に、この身体に組み込まれていた物のような気がする。
焼け付いていた喉が嘘のように、その熱を失って行く…。
ーー私は、ごく自然に、古の音を紡いだーーー
「……ひふみ よいむなや
…こともちろらね
…しきる ゆゐつわぬ
…そをたはくめか うおえ にさりへて
…のますあせゑほれけ ……」
一つ一つの音色に合わせて、銀狼の身体が蒼く……蒼く光輝いて行く…。
それに呼応して、この朽ち果てた世界も変わっていく…。
枯れた土には潤いが戻り…
土が潤えば、枯れた葉に、水気が戻る…
………世界を彩る、一ニ三(ひふみ)歌…。
それらの音は、まるで水彩画のように世界を彩っていく…。
黒は…藍に………藍は……紫に………
青は…………緑に、黄色……。
そして燃えゆる…紅…………。
…………水彩の………マジック………。
それらの色は、お互いに影響しながら、反発もなく、この枯れた世界を彩る…。