化物は身動きの取れない私を宙に吊り上げ、私の顔程もある生臭い口を近付けた。


「……ああ、嬉や……。我が血肉となり、……私にその力をよこせ~っ!!」


化物の顔がさらに大きく歪み、その声はもはや金切り声だった。



そして、そのまま黒い影を纏いながら、私に襲いかかった!!



『もぅ、ダメだっ!』



心で叫んで、目を閉じたその時…………。




私の頭上から『フワリ』と風が舞い降りた。




「……だから言ったろう?…お前は狙われていると……」



ー凛とした通る声ー





風と共に銀色の狼が舞い降りた。




「犬神っ!?貴様!!」



私の真正面……化物のすぐ隣で、風流に扇子を口元に充てて、彼はこちらを見下ろしている。



「…助けて欲しいか…?」



口元は扇子に隠れて見えないが、クスクスと声を殺して笑っているのが解る。



私が答えるより早く、化物が意地汚く罵る。



「…犬神っ!これは、私の獲物っ!お前には渡さんっ!!」



「………やれやれ……。神格を剥奪された祟り神とは、口汚いものよ………」



あからさまに不愉快だと言うように金色の瞳を細めた。

そして、口元の扇子を舞いでも舞うかのようにスーっと下から上へ動かした。


「…ぐっ…がっ……!」



短い悲鳴と共に、化物は目に見えない何かに拘束されているのか、その動きを止めて苦しいそうにしている。


「…犬神っ!…お主こそ、神格はとうになかろうがっ!」



「……お前は少しそのまま黙っていろ」



化物を冷たい瞳で一睨みすると、そのまま私に視線を投げかけた。



「…お前はどうして欲しいのか?」



「………っ!」



「……ふん…。祟り神の毒気にあてられ、声も出らんか…」



「…お前は弱い…。昨日の今日でこの様だ。

守って欲しければどうすればいいか、昨日、教えた筈だが……」



「………」



「……受け入れぬと言うなら……ここで死ね……!」