先程の夢(?)のような不思議な体験の最中に、

「実はそうなんじゃないか?」

とは、思っていた…。


が、これで、はっきりした。


銀狼の言う『夏代子』とは、おばあちゃんの事なんだ…。

この写真を見る限り、私とおばあちゃんは、本当によく似ている。

違う所と言えば、私の髪は、茶髪で、

ゆるいパーマが肩まであるのに対して、

おばあちゃんの髪はサラサラの黒髪が腰まであるって事ぐらいだ。


私ですら、その写真に写っているのは自分かと思った程だ…。


銀狼が間違えてしまうのも無理はない。

それに、その確証を裏付ける理由は他にもある…。



子供の頃、私があまりにも犬神様のお伽話をせがむからか、

ある夜、おばあちゃんがこっそり私にだけ教えてくれた事…。


『おばあちゃんはね、犬神様に会ったことがあるんだよ……』


それを聞いた夜は、興奮して眠れなかったのを覚えている。


そして…


恐らくだが……


私はその時、犬神様と出会った時の話を聞いていたはずだ……。



……しかし、やっぱりどうしても思い出せない…。




その事を思い出そうとすると、頭に霧がかかったように、ボヤけてしまって、その先に辿り着けない……。


結果解った事は、銀狼の言う『夏代子』はおばあちゃんだった、

という事と、先程の体験から、二人はかなり親密な仲だったという事だけだ…。



そして、お互い愛し会っていたはずのなのに、二人は結ばれる事はなかった、という事……。





「……………」




写真たてに、写真を戻し、元の場所に置いた…。


写真たて越しの鏡には、『夏代子』にソックリな私が映っている…。




ーーー神様と人間の恋か……。





冷たいかもしれないが……


普通を好む私からすると、結ばれなくて正解だったんじゃないか、と思う。


だからこそ、『私』が今ここに居る……。


どこかのファンタジー小説から出て来たような、ロマンチックな恋。


それは、小説の中だからこそ、美しい物語として成り立つ……。


現実にはそんな事は成り立たない…。



鏡の中の『私』は、やはり、『夏代子』と、似てなどいない…。



『………銀狼に会いに行こう………』



彼にも事実を伝えなければならない…。


そして、この奇妙な物語を終わらせてしまわなければ…。



今夜は昨夜と違って、月が出ていない。


私は、犬神のいる社へと続く、真っ暗な田舎の一本道を、一人下って行った…。