「僕、鳴人(なるひと)。ここから少し離れた集落に住んでるんだ。よろしく!」
そう言って鳴人は手を差し出した。
「あたしは、真央。亡くなったおばあちゃんの家がこの近くで、しばらくこっちに来てるの。こちらこそ、よろしくね!」
鳴人の差し出された手を握り返すと、彼はニッコリと微笑んで、私の隣に腰をおろした。
栗色の細い髪の毛が真夏の太陽に透けて金色に輝いている。
横に並ばれると、こっちが悲しくなってしまう程の美少女っぷりに、少し緊張してしまう。
「ところで…、
真央ちゃんは、こんな所で赤くなったり青くなったりして何してたの??」
「…えっ!?」
鳴人に唐突にそう聞かれ驚いてしまう。
「いや、若い女の子が一人で珍しいな~って思って見てたんだけど、
ころころ表情が変わるし、ついに独り言まで言っちゃってるから、
面白すぎて思わず声をかけちゃったんだけど」
そう言って鳴人は、
「クククっ!」
と、笑いを押し込めるように笑った。
私は、この美少女の意外な毒舌っぷりに、顔を赤らめた。
「ちょっ、ちょっと!いつから見てたのっ!?恥ずかしいじゃないっ!!」
「いつからって~…ん~…実は、真央ちゃんがここに来る前から居たよ?」
「えっ!?ウソ、あたしが来た時、誰も居なかったよっ!?」
「居たよ~?まあ、正確に言うと、ここの裏に居たんだけどね」
そう言って、鳴人が指差した先は………
犬神の社だった。
「………」
「あれ?真央ちゃん、どうしたの??今度は青い顔して……」
思わず黙ってしまった私を見て、鳴人は愉快そうに笑っている。
「…鳴人くんは、なんで犬神様の社に一人で居たの??」
的を得ない私の質問に鳴人はキョトンとした表情を見せたが、
すぐにその可愛い顔に笑顔を取り戻した。
「鳴人でいいよ!実は僕ん家、この辺で一番大きな神社なんだ。
近々そこで大きな神事が行われるんだけど、僕が取り仕切る事になってんだよね。
ここの犬神様も関係ある神事だから、ちょっと下見にね」
意外な答えだった。
「ええ~!?じゃあ、神主さんって事??若いのに凄いねっ!」
「……ちょっと、真央ちゃん……」
鳴人が苦々しい顔をする。
「僕の事、幾つだと思ってるの?」
「15、6歳ぐらい?」
「……僕、こう見えても、20歳なんですけど………」
「……!!ええ~~っ!?」
この人は見た目と中身にかなりギャップがあるようだ。
少年でなく、少女に見えるその容姿は、
歳なんて、せいぜい私と同じくらいか、少し下ぐらいに思っていた。
「真央ちゃん……。さっきから僕、何気に傷ついてるんですけど……」
鳴人はそう言って唇を尖らせた。