闇に蒼白く浮かび上がる犬神の社に、私の笑い声だけが空回りしている。


銀狼は黙ってそんな間抜けな私を睨んでいた。


なんなのっ!この重苦しい空気は!?あたしが、何したって言うのよっ!?


銀狼が何も答えないから、余計に私が間抜けに見える。

ついに耐えきれなくなって私から口を開いた。



「ちょっと……!!解ったのなら、解ったとかなんとか言ってよっ!!恥ずかしいじゃんっ!」



銀狼はそんな私の一部始終を、黙って眺めていたが、ついに口を開いた。



「………そうだな。夏代子は、そんな跳ねっ返りではなかった。」



そう言った彼の表情は俯き加減で、こちらからは読み取れない。


「それに、もっとしとやかで、艶っぽい女だった。お前の言うとおりかもしれんな。」


…なんか棘のある言い方だけど、納得してくれた??


言い方に多少引っ掛かる所はあるが、予想外の言葉に、私はようやくホッとした。


「…そ、そう。解ってくれたんなら良かっ…」



私がそう言い終わる前に、私の身体は銀狼に抱き寄せられていた。

流石に、本日3度目の不意打ちの抱擁には、私も、もう驚かない。



「…っって、全然解ってないじゃんっ!!」



何を考えているか解らないような、無表情な顔付で銀狼は私を抱き寄せる。


振りほどこうと身体に力を込めようとしたその時、

首元から胸元へ、銀狼の長い指が滑り降りた。

銀狼の指から伝わるその冷たい感触に一瞬身体が硬直する。

そのスキに、パジャマの胸元は大きく開かれ、銀狼の、作りの良い綺麗な顔が指先を追うようにその後を追いかけて行った。


「…っちょっと!!変態っ!!何すっ…!!…っあっ…!!」



私の胸元に銀狼の唇が触れた。

その長い指の冷たさとは対象的に、唇は熱を帯びていて、思わず全身に衝撃が走った。


「やはり……。この香り……。」


銀狼が何か呟いたような気がしたが、

そんな事、今の私にはどうでも良い事だった。


胸元に顔を埋める銀狼の頭をボカボカと殴る。


「イタタっ!!何をする!この跳ねっ返りめっ!!」


銀狼の身体が私から離れた。



「信じらんないっ!何すんのよっ!この、痴漢!変態っ!!!」


肩で息をしながら、大声で怒鳴りつけた。

悲しい事に、私はまだろくに男性経験がない。


私にだって、多少なりともファーストキスに対する憧れぐらいはあったのに、

それをこの男は、レイプまがいに、無理矢理ファーストキスを奪っただけでなく、このような辱めまでっ!


そんな私の心情など、おかまいなしに銀狼はギロリと私を睨んでいる。