「ギンっ!!!」
銀狼の吊り目が、逆三角形に変形する。
「…散歩か…、ほぉう…。
昨夜は具合を悪そうにしていたから、心配して朝から出向いてみれば…
お前は何処にもおらず、もぅ、夕刻になろうかという頃にやっと探しあてたと思えば…
散歩だとっ!?ふさけるなっ!!」
「ひぃぃぃっ!!ごっ、ごめんなさいっ!!」
今にも殴りかかって来そうな銀狼の剣幕に、思わず庇うように身体を丸めた。
「ごめんで済むかっ!!っこのっ……!!」
勢いまかせに飛びかかって来る銀狼に、固く瞳を閉じる。
『突き飛ばされるっ!!』
そう思ったのに…
私の身体に走ったのは衝撃ではなく、彼の暖かい体温とその重量だった。
「…銀狼…?」
覆いかぶさるように私を抱きしめる銀狼は、よく見れば、ずぶ濡れで、乾きかけた私の肌に雫を落とす。
この嵐の中、心配して探し回っていた彼を思うと、心が痛んだ。
「…また…、お前に置いていかれたと……」
かすれた声でそう呟く彼に、心が奮える。
理由はどうであれ、銀狼は夏代子に置いて行かれた身だ…。
真相を知らない彼にとってその記憶は、彼をこんなにも不安にさせてしまう程、根深く影を落としているのだろう。
「…銀狼…。本当にごめん…」
堪らず、私は彼を抱き返す。
そして、大きな背中に回した両腕に、力をこめた。
その時…
「……………」
「……銀狼…?」
銀狼の纏う空気が変わったような気がした。
彼は私の肩に顔を埋めながら、呟く。
「……散歩……か……」
「…え…?」
「…くっくっくっ…」
突然、低い声で笑い出す銀狼。
辺りの空気が急速に氷ついて行くのを感じた。
「…真央…。お前、何処へ行っていた…?」
「…!!」
静かに響くその声に、心臓が跳ね上がる!
「…あ……」
答えれずにいる私から、銀狼はゆっくりと身体を離す…。
「…ゴロゴロゴロ…」
雷の音と、高鳴る心臓の音だけが、やかましく耳に響く。
辺りは薄暗く、逆光になっていて、間近にある銀狼の表情が解らない。
「ドォォォォーーーーーンっ!!!」
凄まじい爆音と共に、地面が揺れる。
近辺に落ちた稲妻の蒼白い閃光が、
刹那に、銀狼の表情を照らした。
「…お前…、何処へ行っていた…?」