生温い風が二人の間を吹き抜ける。
静止状態の彼を見ると、どうやら人違いに気付いて貰えたようだ。
……が………、
「…夏代子…。お前、一体何があったんだ??」
ーーーはぁっ!?
愕然とした表情で男は続けた。
「ま…っさか!!山神のヤツっ!!夏代子の記憶をっ!?」
男の瞳に、再び憎しみの色が宿る。
ーー何言っちゃってんの!?意味わかんないしっ!?
ーーていうか、まだこれ続けるつもりっ!?
こちらがビックリする程、話が伝わってない事に、さらにビックリさせられた。
「ちょっと!!ちょっと待ってよ!!何でそうなるのっ!? 意味わかんないしっ!!
あたしを誰と勘違いしてるのかなんて知らないけど、あたしは『夏代子』じゃないのっ!!」
男はその端正な顔立ちに不釣合いなぐらい
切れ長の瞳をまん丸にさせ、私を凝視している。
「あたしの名前は、真央!『夏代子』なんて名前じゃないのっ!」
鼻息荒く、言い放ってやった。
ーー伝わったよね!?
ーー今度こそ伝わったよねっ!?
「……わかった。」
身構える私に男の反応は意外と素直なものだった。
ホッと胸を撫で下ろしたその時…
男の手が、再び私に伸びる……。
「俺が暫く眠っている間に、お前に何かあったのだろう??案ずるな。
俺が必ず記憶を呼び戻してやるから…。」
そう言って、優しく私の頬を撫でた……。
ーーーーーーーちっ、がーーーーーーうっっーーーーーー!!!