「ピチチチ……」
夜明けを知らせる小鳥のさえずりがあちこちから聞こえてくる…
「…よっしゃぁぁっ!!」
私はそう雄叫びを上げると
気合を入れる為、自分の両頬を
バシンと打つ。
時刻は朝7時…
私にしては早起きな方だ。
手短に身支度を整え、
そろそろここへ訪れるであろう人物を
私は玄関先で仁王立ちになり待ち構えている。
昨日……。
私は銀狼には秘密で、決めた事がある…。
それは…
『一人で山神に会いに行く』という事だ…。
私の中で、確実に進行して行く変化…。
最後に見たあの映像…。
山神と初めて会った時、彼から語られる意味深な言動の数々…。
銀狼ですら知らない真実を、山神は知っている、
としか思えなかったからだ…。
それに…
私に夏代子の記憶がある以上
彼も私も訳が解らないまま苦しみ続ける事になる…。
時折、寂し気な瞳をする銀狼を
一刻も早く解放してあげたかった…。
あの二人は昔、争い合っている…。
理由を説明した所で、山神に会いに行く事など
到底銀狼が許してくれるとは思えなかった…。
だから…
私は、銀狼には告げず一人で会いに行く事を決めた…。
それでも…
私の中にある、得体の知れない恐怖が消え去る訳では無かったけれど…
私は銀狼に恋する前の自分とは違っていた…。
この決意は、私の為でもあり、彼の為でもある…。
自分一人の思いだけだったら、この結論は導き出せなかっただろう…。
「よしっ!!」
私は自分を励ますように、再び雄叫びを上げる。
気合は十分だっ!