「…で…なんでまた、料理なの?しかも、筑前煮。」
鳴人が怪訝な表情で問いかける。
「…と、突然食べたくなったのよっ!!
そ、そうっ!!
昔懐かしのおばあちゃんの味が恋しくなったの!!」
とってつけたような言い訳に、鳴人は
「……ふ~~~ん…」
と、何やら意味深な横目を向けてくる。
「さっ!!気を取り直してもぅ一回!」
私は、そんな鳴人の視線から逃れるように、
その辺にあった食材を手当たり次第に鍋に放り込み、火をかけた…。
「…ボンっ!!!」
「!?」
爆発したっ!?
鍋の中の食材があちこちにはじけ飛ぶ!
「………~~~~~~!!!」
俯いて奮える鳴人に、恐る恐る視線を這わせると…。
「……どう~して、料理が爆発するのかなぁ?」
顔を上げた鳴人の髪から、醤油色の物体がドロッと垂れた。
「…あは♡…ど、どうしてかしらねぇ?ふ・し・ぎ♡」
私はこれ以上鳴人を刺激しないよう、引きつった笑いを作る。
「もぅいいっ!!君には付き合ってられないよっ!!かしてっ!!」
ついに、堪忍袋の緒が切れた鳴人はそう叫ぶと
私を押しのけ、包丁を握り、手馴れた手つきで食材を切り刻み出した。
「うわっ!!はや~いっ!」
「どいてっ!!邪魔っ!!」
鳴人に鬼のような形相で一喝され、すごすごと土間の隅に寄り、それを見守る。
鳴人はまるで、魔法でもかけるかのように
手際よくその作業を進めて行く。
その姿には感心するばかりだ。
女の子に見間違う程の、綺麗な容姿に、料理上手。
その上、微妙な関係でありながらも、
なんだかんだ言って、こうやって面倒も見てくれる。
女に生まれていれば、良妻賢母である事は間違いなしだ。
それに引き換え……
自分の不出来っぷりには溜息しか出て来ない。
『生まれて来る性別、お互い間違えたよねぇ~』
なんてくだらない事を考えていると
「出来たよっ!!」
鳴人のイラついた声で、我にかえる。
「え…?もぅ?早くない?」
ろくに料理も出来ない癖に一丁前な事を言う私に
鳴人はさらにイラついた声で続けた。
「後は煮込むだけっ!
それなら、料理音痴な君にもできるでしょっ!?」
私の表情がパアっと明るくなる。
「うんっ!鳴人、ありがとうっ!」
「全く!!女の癖に料理も出来ないなんてっ!!」
…そのフレーズ、何処かの誰かにも言われたような気が…
「じゃぁ、僕はもう帰るからねっ!!
二度と僕にこんな面倒な事頼まないでよっ!!」
キッ!!と私をひと睨みし、鳴人は
まだ何やらブツブツ言いながら帰って行った。