夜の9時過ぎ。
古谷邸に現れたのは、美代だった。

この部屋までの広い廊下に、すでに圧倒されていた美代は、部屋に通された時点で、テレビでしか目にしたことないような豪邸に気後れしていた。

「は、はじめまして。佐藤美代と言います。こんな遅くにすみません。」

そして、少し言葉に詰まる。


祥子の両親に、すぐにでも伝えたい事があった。
でも、言っていいんだろうか…。

「祥子がいつもお世話になっているわね、美代さん。」

美代を見かねた美佐子は、微笑んで腰かけていたベッドから立ち上がった。

「あのっ…、いえ。そんな…。こちらこそ。……あの、それで今日は祥子さんの事で、どうしても伝えたい事があって。」

「何かしら?」

「あの、その…。」


「はっきりしたらどうなんだ、みっともない!」

秀人がすかさず言う。
体を震わせた美代は俯いた。ますます言葉など出てこない。

「あなた。そんな言い方なさらなくても…。こうやってわざわざ来てくださったんですから。」



「祥子さんは……。」

美代の、その重苦しい言葉に美佐子も秀人も美代に注目した。


「祥子さんは……。祥子は、“駆け落ち”したんじゃないでしょうか…」