わたしが教えられたのは色々な言葉、物事、そして世界にはお母さんとわたし以外の人がたくさんいるということ。
その人たちと関わらないと生きていけない。そう、清川さんに教えてもらった。
他人という複数の存在に興味を持つこと。
言葉や物事を憶えるよりも、それが一番難しかった。
少しずつ練習していこう。
清川さんはそう微笑んだ。
でも、わたしは未だにそれがよくわからない。他人に興味を持つことは酷く難しい。
「他人という存在は少し怖いです」
「怖い?」
「はい。知らないから怖いです」
こういうのを何というのだろう。そうだ、得体の知れない、だ。得体の知れない存在だから怖い。
「僕は?」
七斗くんの声が響いた。
「え?」
「僕も怖い?」
わたしはゆっくりと首を横に振った。
「七斗くんは怖くないです」
「どうして?」
「もう知っているから」
わたし答えに、七斗くんは首を傾げた。
「七斗くんのことはもう知っているから怖くないです」
七斗くんはふっと視線を逸らした。
「僕のことは何も知らないでしょう」
「知っています。おはよう、おかえり、と言ってくれます。わたしの言葉を待ってくれます」